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がん免疫療法に統合医療が果たす役割~ICNIM2019公開シンポジウム開催報告~

ICNIM2019:公開シンポジウム「がんと免疫」 開催報告

公開シンポジウムの今年のテーマは「がんと免疫」、参加希望者は定員を大きく上回り、当日は約200名の市民が参加した。2018年に本庶佑・京都大学特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことは記憶に新しいが、この研究結果を元に開発されたのが「オブジーボ®」に代表される免疫治療薬“免疫チェックポイント阻害剤”である。

当日は、市民にもわかりやすく免疫チェックポイント阻害剤についての解説とがん治療を補う統合医療の役割についての紹介がなされた。

 

免疫細胞のブレーキを外して、がん細胞を攻撃させる

まず、札幌医科大学医学部の鳥越俊彦教授が講演し、免疫細胞である“T細胞(リンパ球)”を戦車に例えて免疫チェックポイント阻害剤について解説した。

T細胞はアクセルを踏んでがんに突進し、破壊するが、アクセルをただ踏むだけでは戦車が暴れまわり、正常な細胞までも破壊してしまう。それを防ぐために存在するのがブレーキシステムであり、このブレーキシステムががんと正常な組織を識別し、がん細胞にだけを破壊する。

しかし、がん細胞の中にはブレーキ分子を発現し、T細胞にブレーキをかけ、T細胞の攻撃から逃れるものもある。このブレーキを解除する薬が免疫チェックポイント阻害剤である。

この免疫チェックポイント阻害剤の特徴として、「T細胞はがん細胞を識別できるため、ブレーキを解除されたT細胞は選択的にがん細胞を攻撃することができる」として従来型の治療に比べて副作用が比較的少ないこと、T細胞はがん細胞の識別情報を記憶するため、抗がん剤と異なり「薬をやめてもT細胞はがん細胞と闘い続ける」と効果が持続することを挙げた。

 

免疫チェックポイント阻害剤の効果は良好

パネルディスカッションでは、パネリストとして福岡大学医学部の藤田昌樹教授と米国イェール大学医学部のインソー・カン准教授、がんヴィレッジ札幌の平田章二院長が、ファシリテーターとして鳥越俊彦教授が登壇した。

福岡大学病院の藤田昌樹教授によると、ステージ3Bまたは4の非扁平上皮非小細胞肺がん患者の二次治療(最初に数回抗がん剤を投与し、その後腫瘍が大きくなった後の治療)において、抗がん剤のドセタキセルよりも免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブ(オブジーボ®)のほうが良い成績が得られたという。

このように、免疫チェックポイント阻害剤は肺がんの治療効果に大きく貢献し、加えて副作用もひどくない。

抗がん剤や放射線療法との併用でさらに効果が得られているという、メリットが非常に大きい治療方法であるが、残念なことに「免疫チェックポイント阻害剤は全体の1/6の人にしか効果がみられていないことが報告されている。さらに、このデータはとても条件の良い被験者を対象とした結果である。実際は免疫チェックポイント阻害剤だけで2年間以上生存している患者は5%に満たない。」と述べた。

 

免疫チェックポイント阻害剤 効く人、効かない人

なぜ“免疫チェックポイント阻害剤”が効かないケースがあるのか。

ひとつには、ノーベル賞の本庶先生らが発見したブレーキシステムは免疫に関連するブレーキシステムの一部であり、他にも隠れた重要なブレーキシステムが多数存在すると考えられるという。インソー・カン准教授は、「その他のブレーキシステムを解除しなければ本来の免疫の力が発揮できないと考えられ、今後はこれらの研究が必要だ」と述べた。

ブレーキが解除されたとしても、免疫チェックポイント阻害剤は単にブレーキを解除するだけであり、がん細胞を攻撃するのはT細胞自体である。そのため、「T細胞の力が何らかの原因で弱くなっている場合はブレーキを解除してもがんを殺傷する力も弱い」、つまり免疫力が弱いことが考えられると鳥越教授や藤田教授は話す。

 

免疫力の重要性

免疫治療では、ベースとなる免疫力が強いことが重要である。

鳥越教授によると、免疫力に影響を与える要因は、「体質」「環境要因」「生活習慣」だという。遺伝的要因である「体質」以外の「環境要因」と「生活習慣」は変えることができる。

免疫力は、ストレスの多い環境により大きな影響を受ける。睡眠障害や生活リズムのリズム障害による不調は、免疫力の低下につながるため、ストレスフルな生活から離れ、心がリラックスできるあるいはやりたいことをする活力を持てるようないきいきとした環境に身を置くことが免疫力を高めるために重要である。

「生活習慣」は食事や運動、筋肉がポイントとなる。意外と知られていないのが筋肉の重要性であり、筋肉は免疫細胞であるリンパ球のエネルギー源であるグルタミン酸の貯蔵庫である。よって、筋肉が減少すると、リンパ球が減少し、免疫力も低下することとなる。筋肉を保つことは免疫力の観点からも非常に重要である。

 

がんと免疫と統合医療

これまで、手術療法・化学療法・放射線療法につづく第四のがん治療方法である免疫療法について述べてきたが、西洋医学であるがんの三大療法と免疫療法には利点と欠点があり、これらを補う補完代替医療が存在する。これらの良いところを組み合わせた医療、すなわち「統合医療」の重要性が免疫療法の開発によりさらに注目されている。

利点である抗腫瘍効果を高める“補完”としては、前述の「免疫力を高める」ことが考えられる。

加えてマウスの実験ではあるが、インソー・カン准教授は、免疫療法である抗CTLA-4抗体療法と機能性食品AHCCとの相乗作用について触れ、「AHCCと抗CTLA-4抗体を併用したマウスでは、抗CTLA-4抗体やAHCC、水を単独投与したコントロール群と比較して腫瘍サイズが有意に小さかった。」と述べた。

ただ、これはある1種類の悪性黒色腫のマウスの実験であり、すべてを結論付けられないが、補完代替医療の可能性を探る出発点となると話した。

また、欠点を補うことで利点が大きくなることも考えられる。

鳥越教授は、「免疫療法の副作用である自己免疫疾患をサプリメントまたは代替医療によって抑えることができれば、長く免疫チェックポイント阻害剤を使うことができるため、患者にとっては大きなメリットだ。」と述べた。また、「これまでの研究より腸内細菌と自己免疫についてたくさんのことが明らかにされている。

すなわち、食物やサプリメントによって腸内の環境を整え、自己免疫疾患あるいは免疫チェックポイント阻害剤の副作用を少しでも低減させられる可能性が高いと考えている。」と最近話題の腸内細菌による免疫への影響にも触れた。

平田院長は、統合医療は患者のステージに合わせた使い分けが重要であると話し、「治る可能性があるステージの患者については、しっかり抗がん剤や免疫治療を行い、さらに統合医療を組み合わせることで手術可能な状態にする、または完治させるように治療するべき」であり、進行がんや末期がんの患者については治療による副作用が強く出るケースが多いため「心と体を整えることが必要」だと考えていると述べた。

 

このように、統合医療には西洋医学の抗腫瘍効果をサポートする役割、副作用を軽減し治療の継続を可能にする役割、患者の生活の質(QOL)を向上させ、がんと共存した状態で生き生きとした生活を実現する役割など、多方面での役割が期待される。

新たながん治療方法である免疫療法においては統合医療の役割はますます大きくなると考えられる。